やっと日本語がしゃべれた。
 お店の人からからお客さんに話しかけてくる店も無い、この小さな集落では僕の方からみんなに話しかけることが多く、外国語が自由に操れない僕の頭の中のコンピューターは熱暴走寸前になっていた。

 英語を喋るのがしんどくなった僕は、集落を離れ一人で森の中へ向うことにした。クマに出会う危険はあるものの、山が大好きな僕にとって、森の中はものすごく気持ちのいい空間だ。森といっても、川が流れ見通しの良いところを選んで森の中に入っていった。

 リスやウサギ、鹿などの安全な動物と出会えればいいなと思っていると 一羽のカラスが僕のすぐそばに飛んできた。日本では怖い鳥の代表みたいになっているカラスだ。そんなカラスが、手を伸ばせば届くくらいの所にとまって僕に何か話しかけてきた。「クワークワー」と。

 目の前のカラスに「ハロー!」と声をかけてやると「クワークワー」と答える。 「『ハロー』を日本語では『こんにちは』と言うんやで!」と日本語を教えてやることにする。「『グッドモーニング』は『おはようございます』と言うんや」と話しかけると、目の前のカラスが「クワークワークワー」と首を振りながら話し始めた。よし次は「とてもいい天気ですね」と教えると「クワークワークワークワー」と話しているように全身を振って喋っている。そうこうしているうちに僕は、カラスに向かって日本語で喋っていた。そんな僕の独り言にカラスがつきあってくれていたのだ。それも30分近く・・・。この30分間、目の前のカラスとは完全にコミュニケーションが出来ていた。

 英語を聞くため、話すために全神経を集中し熱暴走しかけた僕の頭がクールダウンしてきた。この凛々しいカラスのおかげで、すっかりストレスが無くなった。日本語を話すってことがこんなにも精神衛生上いいものだとは思わなかった。

 しかし、自分からインディアンの人達に会うために、この北極圏まで来たのに、人と会うのを避けてカラスと日本語で話している自分がおかしくて仕方がなかった。
北極圏のカラスさん、ありがとう。
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