1.ヘアー・インディアンとの出会い旅。
 今から10年ほど前(1990年頃)、大阪梅田の紀伊国屋書店内を歩いているとき、右後方の書棚の上の方から一冊の本が僕を呼んでいるように感じたのです。「わたしを取って!わたしを見て!」って感じで、ふりかえり見上げると“極北の・・・”の文字が見えたのです。

 小学生の時から登山を始め、地球上の極地へのあこがれを強く持ち続けていた僕にとって“極北の・・・”の文字が強烈に存在感をアピールしてきたのです。手にとってその本を見ると、極北のインディアン(ヘアー・インディアン)の生態を文化人類学的に調査した記録の本“極北のインディアン”でした。パラパラと立ち読みした時には、とても内容の固い本で、僕には縁のない本かな?と思ったのですが、その本に載っている写真の一枚一枚が、すごく自然に撮られた写真で「うーん」とうならされてしまったのです。

 カメラマンの僕が、唯一うならされた写真の数々です。技術的に素晴らしいとかでなく、写真を撮る側、取られる側に何の緊張感もなく、どの写真を見ても撮影者に対して心を許しているのが感じられるのです。このような写真が撮れるのは、撮影される側、撮影する側との間に完全なコミュニケーションがあって初めて撮れる写真なのです。

 振り返って自分の撮影してきた写真を思い浮かべたとき、これほど気持ちが通い合って撮れた写真はあったかな?。“極北のインディアン”の著者がこの集落で過ごした日々を思うと、嫉妬で気が狂いそうになるほど羨ましく思いました。

 若い女性が単身極地に赴き、言葉も文化も習慣も、何もかも違う人たちと交流しあえた“極北のインディアン”著者の原ひろ子女史が、写真に残した極北のインディアン、ヘアーインディアンの人達、その後の彼ら、彼女の様子を知りたくて知りたくて、行きたい行きたいと思い続けていた夢がやっと実現したのです。
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